ブログでは初の絵本紹介となります。
今回は『百年の家』と『ちいさいおうち』の2冊です。
親子でリンクコーデを楽しむように、親子で絵本を1冊ずつ選ぶならならどれがいいだろうという観点でコーディネイトしてみました。
ポップで愛らしい表紙の『ちいさいおうち』は子ども向け、重厚で芸術味溢れる『百年の家』は大人向け、と一応位置付けることはできます。
しかし、絵本に年齢制限はありません。読み終わればぜひ親子で交換して読んでみてください。2倍、いやそれ以上の価値が生まれるはずです。
家と時間
どちらの絵本も「家」を中心として定点観測的に時代の変化が描かれてゆきます。
そして、どちらの絵本も物語の中心に「家」が据えられているのはけっして偶然ではなく、とくに石や煉瓦でできた経年に耐えうる西洋の家は、長い尺度で時間を語る作品とは相性がいいものです。
ちなみに、木や紙で出来た日本家屋と西洋の家屋との対比は中学入試でよく出題されます。
つい絵本を読んでいる最中に「これは入試で出るから覚えておきなさいね」と言いたくなりますが、それは無粋というもの。
もっと自然に日常生活の中や読書で知識を増やしていくのがいいでしょう。そのためにも幼い頃から本に慣れ親しんでおくことをおすすめします。
ちいさいおうち
・ ばーじにあ・りー・ばーとん 文・絵
・ いしい ももこ 訳
・岩波書店
初版はなんと1954年! 70年近く多くの人に愛され読み続けられてきた、言わずと知れた名作です。
むかしむかし、静かな田舎にちいさいおうちがありました。
おうちは、春夏秋冬つねに自然を感じながらおだやかな日々を過ごしていました。時には街に思いを巡らせながら。
ところがある日、静かな田舎に自動車がやってきます。ちいさいおうちの周りは一変、みるみるうちに開発が進み……。
14ページ「ところが」から、開発の速度に合わせるかのように物語はスピードを増し、おうちは周囲の巨大建築物に飲み込まれていってしまいます。
この本の魅力のひとつに、ちいさいおうちの表情が挙げられます。
都会で精彩に欠けていたちいさいおうちがラストで見せる表情は、本当に心からよかったねと言ってあげたくなるほど明るく嬉しそうです。
バージニア・リー・バートンの描くおうちの表情は、アニメほど誇張されてもいないのにかくも豊かに私たち読み手の心に届きます。
百年の家
・ J.パトリック・ルイス 作
・ロベルト・インノチェンティ 絵
・長田弘 訳
・講談社
くしくも今と同じように疫病がが大流行した1656年。
その時に建てられた「わたし」が、子どもたちに発見されたのは20世紀が始まろうとする1900年ーー廃墟の「わたし」は息を吹き返しました。
ここから始まる100年間の出来事を中心に物語は展開します。
そう、タイトルは「百年の家」ですが、「わたし」はそれ以上前から“ここ”に存在しました。ラストで「わたし」は形を変えながら、これからも”ここ”に存在し続けていくのでしょう。
人間の生活の営みを静かに見守り、喜びも悲しみも生死も全てを受け入れる「わたし」の存在は、抑制の効いた筆致にも表れています。
物語も極力抑えられた、まるで純文学のような絵本です。
子どもには難しい? ……たしかに大人向きかもしれません。
しかし、読み方はさまざま。たとえば緻密に描かれた絵の中の一人ひとり(ガチョウにだって!)の物語に思いを馳せれば、何時間あっても足りないはず。
どうぞ絵本の隅から隅まで楽しんでください。
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