本の紹介『くまのこのるうくんとおばけのこ』『とりつくしま』



〝親子でリンク本〟の第2弾、今回は同じ作者の括りで選びました。

お子さまには『くまのこのるうくんとおばけのこ』、親御さんには、以前に慶応普通部で出題された『とりつくしま』(出題は『ロージン』)をご紹介します。

(以下少しネタバレ)


『くまのこるうくんとおばけのこ』と『ロージン』の共通点は〝消えゆくこと〟です。

両親のいる空に行ってしまった「おばけのこ」、とりつくしまをなくしてしまった「私」、どちらも別離を描いた話なのに悲しさ全開には転びません。切ない中にもやさしさや温もりが根底に流れ、そして何よりも歌人である東直子さんの選ばれる穏やかな言葉が読者の心に沁みるからでしょう。


『くまのこのるうくんとおばけのこ』

・『くまのこのるうくんとおばけのこ』

・東直子 作

・吉田尚令 絵

・くもん出版


天気のいいある日、くまのこのるうくんは、ぽんぽん山(なんて可愛らしいネーミング!)に向かいます。そこへ出会ったのが「おばけのこ」。仲良くなった二人は、一緒にぽんぽん山の頂上をめざすのですが、途中で別れ道になってしまいました。

「るうくんは、こっちの みちで」おばけのこは、右がわの みちを ゆびさしました。「ぼくは、こっちの みちを いって」おばけのこは、左がわのみちを ゆびさしました。「ちょうじょうで まちあわせしようよ」

それぞれの道を歩みだした二人。無事頂上で出会えるのでしょうか? 


二人の友情と思いやりが、押し付けがましくなくすっと心に入ってきます。

最後におばけのこがるうくんにプレゼントしたちょっぴり苦いチョコレートのように、ちょっとだけほろっとするお話です。

図書館でジャケ借りしたほど絵が可愛らしいので、読み聞かせにもおすすめ。

おばけのこを思い出しながらチョコを食べるシーンはモフモフ好きの方なら必見です。

自分で読むなら小学校低学年から。


『とりつくしま』

・『とりつくしま』

・東直子 作

・筑摩書房 ちくま文庫


『ロージン』

14歳の息子と夫を残して死んでしまった「私」に、「この世に未練があるなら、なにかモノになって戻ることができますよ」と、とりつくしま係が語ります。

ならば息子の中学校最後の試合を見届けるためにと、ピッチャーが手につける白い粉、ロージンにして欲しいとお願いします。中身が半分以上飛び散れば、この世から完全に「私」は消えてしまうのですが……。

「いいです。その方が、いいんです。あの子にとっても、私にとっても。あまり、長くいない方がいいんです。長くいすぎると、あとできっと、すごくつらくなると思うんです」「ふむ」とりつくしま係は、二つの穴を閉じた。「あっさりしていてよろしいですね。では陽一くんが公式試合で使うロージンを、あなたのとりつくしまに設定いたします」

こうしてロージンになった「私」は、息子のすぐそばで試合を見守ることになります。試合の結果は? そして「私」は?


『とりつくしま』の文庫には『ロージン』を含む11のお話が収められています(中にはちょっと大人向きの作品もありますので、ご家庭でご確認ください)。


どの作品も、この世に未練を残して死んだ「私」「あたし」「ぼく」「ワシ」……が「モノ」にとりついてこの世に戻るお話ですが、この設定が絶妙です。

「モノ」だからこそ、大切な人が躊躇なくそばで話しだしたり、でも気づいてくれなかったり……と、切ないシチュエーションが満載です。

子どもたちよりも、むしろ親御さんのほうが読めば号泣、ってことになるんじゃないかなと思います。


慶應普通部の入試問題を見てみましょう。2015年出題ですから少し前のものですね。

私は、強く吹いてきた風に身体をどんどんさらわれながらという表現を、この時の情景が分かるように二十字以内で書きかえなさい。

「私」は今「ロージン」にとりついているのですから、身体は粉末の状態です。風で飛び散っていく情景を正しくとらえながら簡潔にまとめます

本文にはもともと、次の一行がありました。どこに入るのが適切ですか。この一行が入る直前の五字をぬき出しなさい。私は、とりつくしまをなくしたのだ。

陽一が勢いよくロージンをてのひらに打ちつけている場面や、「私」の視点から描かれる視覚描写を丁寧にたどり、とりつくしまがなくなるその〝瞬間〟を探ります。

私の、お母さんの役目は、もう、終わったんだとありますが、そのように思えたのはなぜでしょうか。

本文全体から読み取れる母親の思いと陽一の変化に着目します。大きな括りでいえば受験生と同年代の少年の成長物語になりますが、それをお母さんの視点で客観的に捉えるところにひねりがあります。さらに短い選択肢ゆえ取っ掛かりが少なく、感覚で選んで間違えてしまう子もいるでしょう。

 

お子さまが夢中になって世界を広げているその瞬間、ぜひ親御さんも同じ体験をしてほしいと思います。