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神戸へ移住


夫の趣味は、街歩き・地図鑑賞・Googleマップでバーチャル散歩。

好物は暗渠・路地裏・高低差。


「俺が元祖ブラタモリだ」と豪語する夫は、タモリでない時点でただの「街をブラブラするおじさん」なのですが、たしかに番組の始まる10数年前ーー高校時代から興味の湧くまま気の赴くまま東京の街を歩き回っていたそうです。

大学生になり時間に余裕が生まれると、街歩きの範囲は東京を飛び出し全国各地へと広がりを見せます。そんな頃から、いずれ住みたいと目をつけていた街、それが神戸だったそうです。


2018年の初夏、夫婦で神戸に引っ越してきました。


東京生まれ東京育ちの夫は移住。一方、関西出身の私は生まれ故郷に戻ってきたわけで正しくは移住ではありません。しかし、20年も離れてしまうと気持ちはもう移住に近いものがあります。


引っ越して間もない頃は、“記憶にある街並み”と、“今ここにある街並み”との食い違いに戸惑うことがありました。

それはたぶん震災の前と後という神戸の土地特有の事情もあるのかもしれません。


街並みだけではありません。

あ、今帰りなんやと、下校途中の女子高生たちの中に自分の同級生を見つけて立ち止まり、ああ、そんなはずがない、同級生だってすでに私と同じ年齢なのにと気づく。


寝転がって空を眺めていると、雲が動いているのか自分が動いているのか分からなくなりますが、そんな感覚に近いです。

自分が過去に戻ってしまったのか、それとも過去がこちらにやって来たのか、過去と現在がゆらぐ不安に襲われながらも、そんな不安定な状況に惹かれもします。残念ながら今は街にも慣れてしまい、そうした記憶のもつれはずいぶん減ってしまいました。


夫は移住した街をどう受け止めているのでしょう。


一緒に散歩をしながら、私の隣で神戸港や六甲山や三宮の街並みをどのように見ているのだろう。夫がひとりで散歩をする時は(あり得ないほどの距離を歩き回っているらしいけれど)、私が一生通ることのないだろう道を何を考えて歩き続けるのか。


以前説明してくれたことから推測するに、地図から得た数値や知識には収まり切らない何かに触れるために歩くらしいです。……ちょっと何を言っているのか分かりません。

しかしもしかすると、私が小説を読み続けるのと似ているのではないかと思います。


職業柄、書き方、読解、解答技法など技術技術と言い続け、それは間違いなく確かなことなのですが、それでもその範疇からこぼれ圧倒される作品がいくつもあり、それらに出会うために本を読み続けている自分と重なりました。


それにしても驚くのは、住んで間もない夫のほうが私より土地勘があること。

恐るべし、偽タモリ!

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